「Fat Protocols」理論について。仮想通貨・ブロックチェーンのビジネスモデルを構造化する。

今回は仮想通貨・ブロックチェーンに関してのビジネスモデルを考える人なら誰もが読んでおくべき文章「fat protocol」についての解説記事になります。
この文章は仮想通貨・ブロックチェーンの産業構造について予測した記事として海外では非常に有名でコモンセンスとして捉えられているようなのですが、日本語の解説記事はほぼありません。しかし内容としては難しいものではなく、日本語訳も出ているので、仮想通貨投資家やブロックチェーンプロジェクトを開発したいと思う人であればトークンの発行の有無に関わらずぜひ内容を理解しておくべきでしょう。

『Fat Protocols』について

この文章の作者はJoel Monegro氏です。彼は現在PlaceHolderにいますが、執筆当時はUnion Square Venturesに在籍していました。

Union Square Venturesについて

Union Square Venturesは2014年創業でニューヨークに拠点を置くベンチャーキャピタルです。10カ国20都市以上に拠点を置き、8000千人近い従業員がいます。Slackのグループには80000人以上が参加する世界的にも著名なVCです。
ポートフォリオとしては世界一有名なイーサリアムのゲームとして長く有名だったCryptoKittiesやPolychain Capital、Coinbaseなどプロトコルレイヤーから取引所やVCと言ったエコシステムのプレイヤーに到るまで広く投資しています。
彼がUnion Square Ventures在籍時に発表し、業界の共通認識として広まったのがこの『Fat Protocols』の文章です。
日本語訳もあります。

「プロトコルレイヤー」と「アプリケーションレイヤー」の価値の逆転

 

彼が提唱したことを一言で表すと、ブロックチェーンの産業構造においてはプロトコルレイヤーの価値がアプリケーションレイヤーを上回り、「富むプロトコル(Fat protocols)、貧するアプリケーション(Poor applications)」になるという予測です。
これまでのインターネットの世界においては、共有プロトコル(TCP/IP、HTTP、SMTPetc)は誰もが利用する社会的価値のあるものとして認められる一方で、技術に対する金銭的な価値はあまり付けられてくることがなく、むしろその上に乗るアプリケーションに対して価値が集中してきました。
特にGAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)やマイクロソフトの躍進がそれを端的に示していると思われます。
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一方でブロックチェーンについてはこの「プロトコルレイヤー」「アプリケーションレイヤー」の価値のバランスは逆転します。Joel Monegro氏によればアプリケーションレイヤーを支えるプロトコルレイヤーにこそ価値がつき、アプリケーションレイヤーはこれを超えることができないというのです
その理由として彼は2つの事実として①共有データ層の存在と②投機的な価値を有する暗号化トークンへのアクセスを挙げています。

共有データ層とトークンの存在

ブロックチェーンのトランザクションには誰もが等しく自由にアクセスできる、という特徴があります。そして同じプロトコルの上で各サービスは競争しながらも、相互運用性を持って行くことになり、このことで良いプロダクトを生み出す強制力が働いていく、というのです。
一方でオープンネットワークと共有データ層だけでは経済的インセンティブにかけるため、トークンを発行し、サービスを跨いで利用可能なコンポーネントとして使用する、というわけです。
実際にビットコインネットワークにおいては取引のために「Bitcoin」、イーサリアムネットワークにおいてはネットワークを動かすための「ETH」がトークンとして発行されていますね。
仮想通貨投資初心者の方の中には、例えば「イーサリアム」と「ETH」が完全に同一のものを指していると思っている方も少なくないと聞きますが、あくまでも「イーサリアムというネットワークを動かす上で必要なトークンがETHである」というのが、より正確な理解でしょう。

共有データによる管理コスト削減

また共有データは、ユーザデータがプロトコル/ブロックチェーンに保持され、これをその上部に構築されたアプリケーション間で等しく共有されることを可能にします。歴史的にデータは整理されており個別のサービスのみで管理されていたが、このデータを共有することで、データの管理コストを下げることができる、というわけです。
具体例としてJoel Monegro氏は資産の移行を挙げています。
オンライン株式トレードサービスRobinhoodから同じく株式トレードサービスのE-tradeに転送するにはデータが共有されていないため手間がかかりますが、仮想通貨取引所Coinbaseと取引所Binanceの間である通貨を移動することは、その通貨の情報をブロックチェーン上で両企業が共有しているため、シームレスに実行できる、というわけです。

富めるプロトコルを生み出すサイクル

そしてアプリケーション層の成功が下レイヤーであるプロトコル層をより一層加速させることから、プロトコルの時価総額は常に上位レイヤーのアプリケーションの価値の合計よりも早く成長していきますし、プロトコル層の価値が上昇すれば、アプリケーション層の競争を激化させる、というループがあります。
このようにブロックチェーンのビジネスモデルについては常にプロトコルレイヤーがアプリケーションレイヤーに先行して価値がつき、アプリケーションレイヤーの価値の増大に伴ってさらにプロトコルレイヤーが「Fat」に、つまり富んでいく、というわけです。
これまでのインターネット産業はアプリケーションレイヤーの優位によってwinner take allの構造でしたが、Joel Monegro氏によればこのようにブロックチェーン産業においてはプロトコルレイヤーが常に価値を増やし続けて行くため、「全く新しい産業構造の企業が登場するだろう」と予測しています。
個人的な感想としては、はEthereumの総合企業Consensysや、日本におけるLayerXのようなブロックチェーン関連の複合事業を手がける会社が登場していることはこの流れに沿ったものであると思っています。
今回は仮想通貨ホルダーであれば誰もが一度は読んでおくべき「Fat Protocols」について解説しました。
この解説を踏まえた上でぜひ日本語で良いのでオリジナルを読んでみることをオススメしています。
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