先日Twitterで赤羽みみずさん(@Mimizu_A )に『仮想通貨法の仕組みと実務 ―逐条解説/自主規制団体・海外法制/会計・監査・税務―』という本をAmazonの欲しいものリストからプレゼントしていただきました。赤羽みみずさんには2冊も本を頂いてしまい本当に感謝感謝です。ありがとうございました!
個人的にはこの本はある程度法律もしくは仮想通貨のいずれかについて知識を備えている人にとってはとても良いまとめ本になっているように思われたので、書評もかねて特徴をまとめておきたいと思います。
この本は、仮想通貨の貨幣的側面、法学的側面、技術的側面全てについて弁護士を含む実務家らが広く俯瞰していることが特徴です。
ビットコイン・仮想通貨・ブロックチェーンについての解説
法律家がビットコインおよび仮想通貨について語るときはしばしば、貨幣的側面や経済学的側面については触れることなく、公法的規制について解説することが多い傾向にあります。
一方で本著はビットコインの貨幣としての性質を法的な観点から検討しており、例えばハイエクの貨幣発行自由化論やケインズ経済学との関係性について、また通常実務寄りの本ではあまり記述されない貨幣・金銭の私法上的性質についても解説されています。
また仮想通貨の技術的側面についても、ブロックチェーンを知らない人向けに簡潔な解説があり、それを踏まえて私法上の性質についても記述されています。
- 貨幣学・経済学
- 技術的側面
- 私法上の性質
についてここまで簡潔明瞭な記述がされている本は珍しいなというのが率直な感想です。
私法上の性質について
なおこの本では、ビットコインに限定して私法上の性質を公開鍵暗号方式などの技術的側面にも着目しながら、排他的支配可能性を否定し、かつ物権法定主義の観点から財産権の成立を否定する見解に立っています。そして保有者に対する保護は不当利得および不法行為法に基づく損害賠償請求によってなしうるという法律構成をとっています。
一方で仮想通貨は秘密鍵によって排他的支配を観念できる以上、有体性はないものの、物の要件としては排他的支配可能性で足りるとした我妻説に基づけば財産権の成立を観念できるのではないかとする説を主張する本や論文も多く、どちらの説も一定の合理性がある以上、判例もしくは立法的な解決を待つ必要がありそうです。
実務上必要になる法規制に関する解説
なお実務上必要になる解説として
- 資金決済法および仮想通貨交換業について
- 会計監査の実務・税務
- 海外の規制の方針(米国、英国、中国など)
についてもコンパクトにまとめられています。特に資金決済法については逐条解説があり、非常に有用です。
またこの本の面白い点として、執筆者に自主規制団体への出向者が加わっていることからか、自主規制団体である一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)規定についてのページが多いことです。
通常仮想通貨交換業者は単に資金決済法の規制に従うのみならず、JVCEAの規制にもしたがってビジネスをする必要がありますが、JVCEAがどのような趣旨で設立され、どのようなルールで金融庁と合意しているのか、といった仔細な内容が解説されています。
先日Coincheckがついに正式に仮想通貨交換業者として認められたように、今年は交換業取得企業が多くなるのではないかと個人的には思っているので、それらの企業はJVCEAの自主規制ルールも把握しておく必要があるでしょう。
まとめるとこの本は
- 貨幣学・経済学
- 技術的側面
- 私法上の性質
- 資金決済法および仮想通貨交換業について
- 会計監査の実務・税務
- 海外の規制の方針(米国、英国、中国など)
- 自主規制団体
について、包括的に全体像を把握できるようになっていました。「仕組みと実務」というタイトルだが、「仕組み」を法的に分解することにページ数を割いており、わかりやすいなというのが率直な感想です。
これと比較できるのは『ブロックチェーンをめぐる実務・政策と法』ですが、こちらはより法学部の学生や弁護士が初めて読む初学書として適しているのに対して、本著は出版日が比較的新しいだけあって、より一歩実務に踏み込んだ話がされているなという印象でした。
仮想通貨でビジネスをしている人やビジネスをしたい人は一通り目を通しておくだけでも規制の全体像が把握できるかと思います。
他にもオススメの本はこちらでまとめていますので、より実務むけの本が良い方やさらに易しい本が読みたい方はこちらもお読みください。