仮想通貨/暗号資産に関する規制のニュースが出るたび、我々の業界では「金融庁は何もわかってない」「そんな規制したら何も発展できない」といった阿鼻叫喚・怨嗟の声が飛び交います。
これは日本に限った話ではなく、様々な国の金融当局が仮想通貨に対する規制を実施し、そのたびにスタートアップが批判する構図が散見されるわけですが、そもそもなぜ各国当局は仮想通貨に関しての規制を行なっているのでしょう?彼らがスタートアップから批判されながらも、守ろうとしているものはなんなのでしょうか。
この点について法学的な観点から簡単に書いてみたいと思います。
金融当局が保護すべきもの
そもそも金融当局は金融取引一般について管轄しており、必要があると判断すれば立法に働きかける、立法せずともガイドラインを公開し運用する、といった業務を行います。彼らの業務がフォーカスしているものは大きく分けて2点、マネーロンダリングの防止と投資家・健全な市場の保護です。
金融当局は投資家を保護し不健全な取引を排除することで健全な市場を形成する一方で、マネーロンダリングやテロ資金調達対策といった形で反社会的勢力への資金流入を防止することを目的とし、各種金融に関する規制を実施しています。
その結果として、金融庁も、対応する金融当局も業務・システムの観点から莫大なコストを支払っています。
以下具体的にみていきましょう。
マネーロンダリング防止・テロ資金供与防止対策
各国当局はAML/
マネーロンダリングとは資金洗浄とも呼称され、犯罪の収益を「洗浄」、すなわち何度も各口座を移転させて足がつかないようにすることでさも「普通のお金」であるように見せかける手法のことを言います。
AML/CFTが注目されるようになったのは2001年の世界同時多発テロです。この同時多発テロ以降AML/CFTを各国が実施することで、テロリストに資金が流れるのを防いだり彼らが資金洗浄を実施するのを防ぐようになりました。
世界的にAMLを主導するのがFATF(マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)と呼ばれる政府機関です。FATFは数年に一回、各国の金融当局に対して審査を実施し、AML/CFTの徹底具合を調査します。もしそこでマネロン対策が不十分であるとFATFが認識した場合、その国には勧告が出されてしまいます。その中で特定の国で何回も取引所がハッキングされたりした場合には、当該国の当局では当然FATFの意見に従いAML/CFTの観点から規制を強化すべきという流れになってくるわけですね。
また米国のFinCEN(米金融犯罪取締ネットワーク)と呼ばれる規制当局も有名です。FinCENが仮想通貨の資金洗浄対策に乗り出したのはかなり早く、そのきっかけとなったのが2013年のシルクロード事件です。
通常のブラウザではアクセスできず、特殊なブラウザでないとアクセスができない「闇Web」上にある「シルクロード(Silk Road)」と呼ばれるマーケットプレイスで、違法薬物、殺人、ポルノをはじめとする違法な商品・サービスの決済が、仮想通貨で行われていました。
首謀者とされていたウィリアム・ロス・ウルブリヒトは現在逮捕され、終身刑となっています。
このシルクロード事件については下記関連記事を公開しておりますので、ぜひご覧ください。
このシルクロードの収益は一か月で120万米ドルにものぼり、そのほぼ全てにBitocoinが決済手段として用いられていましたので、これ以降FinCENはSECらと時には協力しながら仮想通貨の流れを追跡、防止するために活動しています。
投資家保護・健全な市場の育成
投資家保護は金融当局にとっては重要な課題です。投資家による投資は国家の経済発展という観点で非常に重要ですが、そもそも彼らを不当な詐欺や中身のない投資案件から守ることは、国家のある種の義務とも捉えられるでしょう。
仮想通貨との関連でいえばやはりICOです。中身のないICO、資金調達後に行方を眩ませるICO、調達したはいいが開発せずロードマップも一向に更新されないICO…引っかかるのは自己責任と片付けてしまうのは簡単なのですが、本当に悪いのは自己責任で被害に遭ってしまった投資家ではなく詐欺をはたらこうとしてICOを実施したスキャマーたちです。当然彼らから善良な投資家を守るために、当局としてはICOを実施するための細かい規定を定めるようになるわけですね。
最近米国でSTOが流行しているのも、STOを最初から投資家保護を掲げるSECの御旗の下で実施すれば善良なプロジェクトにとっては詐欺ではないのかという疑いの目を払拭できますし、投資家からしてもSECがお墨付きを与えているから安心、となるわけですね。
いくら善良でも資産がないとできない仕組みになっているから、本来bitcoinが目指したdecentralizedの思想とは相反するのではないか、という批判があるわけですが…
日本でもSTO関する法規制が議論され始めていますが、ことICOとの関係で言えば出資法や特定商取引法が引っかかってくるのではないかと考えられています。
いかがでしたでしょうか。まとめると「各国規制当局は資金洗浄防止・投資家保護の観点から、時にはクロスボーダーに必要な策を講じている」ということです。
確かに必死に仮想通貨・ブロックチェーンの開発・ビジネスに携わっている当事者にとっては、規制が原因でイノベーションが阻害されているように感じられてしまうと思いますが、(手法や規制自体への評価はさておき)規制当局にも当局なりの論理があり、それは目に見えないものの、公共性の観点では誰かがやらないといけないことである、ということが伝われば幸いです。
(実際こういう公益に関することは利益出ないから民間企業はやりたがらないわけで…)
規制当局の論理をさらに知りたい人はブロックチェーン関連のおすすめ法律書まとめ記事をどうぞ。
もしおヒマな方は、ぜひシルクロード事件についての記事を読んでみてくださいね。
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