今回は中国の国家と法制度に関して少し書きたいと思います。
社会主義国である中国の法制度は、ドイツ・フランスと言った大陸の法体系ともイギリス・アメリカのような英米法とも異なる独自の法体系を取っています。しかも中国の法体系について語る記事は日本語では非常に少なく、あまり周知されていません。そんな中国の法制度の成立について歴史的な観点から少し書いていきたいと思います。
中華人民共和国の法制度の歴史
さて中華人民共和国の法建設は、
①中華人民共和国建国前の革命期:先行する社会主義国家ソ連の法制度を模倣した時期
②中華人民共和国建国後の社会主義法建設時期(前半の30年)
③改革・解放時期(後半の30年):1966年の文化大革命およびその指導者毛沢東の死去という一連の流れで壊滅した法制度の復活を目指すべく中国独自の法理論・法制度の整備をすすめた時期
に分けられます。
以下順に解説していきます。
①ソ連の法制度を模倣した国共内戦時期
第二次世界大戦前後の中国大陸は、当時蒋介石率いる国民革命軍と毛沢東らを中心とする中国共産党らに別れ、激しい内戦を繰り広げていました。
まず中国共産党が成立したのは1921年です。成立して以降、国民党との何度かの協力・対立を繰り返し、徐々に対立が深刻になったことから1931年、国民党の弾圧を受ける形で中華ソビエト共和国中央政府を樹立しました。
日中戦争、すなわち「抗日戦争」では再び国共合作をとったものの、その後再び分裂し、いわゆる「国共内戦」となりました。この際圧倒的な農民の支持を受けた中国共産党が勝利し、新政府を樹立することになります。これが現在の中華人民共和国です。
この時期の法制度は概ねソ連の法制度・国家統治システムを模倣したものであり、中華人民共和国の独自性は薄いものでした。
②中華人民共和国成立後の社会主義法建設時期
さて、中華人民共和国成立に際して採択された「共同綱領」では、中華人民共和国は「新民主主義すなわち人民民主主義の国家」すなわち「労働者階級が指導し、労農同盟を基礎とし、民主的諸階級と国内諸民族を結集した人民民主主義独裁」の国家であると規定され、その最高指導者である中央人民政府委員会主席には毛沢東が選出されました。
ここでは社会主義の典型例である計画経済が敷かれ、共産党の力が国家を超越したことを定めた憲法が定められました。
・計画経済ー第1次5か年計画が1953年から開始
・「54年憲法(正式名称:中華人民共和国憲法)」が採択され、翌日交付
ただ、この時期の中国社会自体がまだ社会主義段階に到達していないため、社会主義への過渡期である、という位置付けで採択された、あくまでも「社会主義型」の憲法でした。
この時期にはしばしば教科書などでも取り上げられる、「土地の国有化」「郷鎮企業の設立」といった政策が進められました。
資本主義から共産主義への移行
少し話がそれますが、マルクスの理想とする「ユートピア社会」すなわち共産主義の世界について前提を確認しておきましょう。まずマルクスの『共産党宣言』においては、
階級と階級対立とをともなう旧ブルジョア社会にかわって、ひとりひとりの自由な発展が万人の自由な発展の条件となるようなひとつのアソシエーション社会が出現する。
との文言があります。
現在では「社会主義とどう違うの?土地を市民が持てないんだよね?」「政府に全て監視されているのでは?」と言ったイメージの強い共産主義ですが、マルクスはそのようなことは一切『共産党宣言』の中では主張しておらず、あくまでも労働者が資本家に搾取されるばかりの社会(資本主義)から解放され、社会主義を経由し、到達する誰もが対等な立場で労働し、経営にも参加するアソシエーション社会こそが共産主義の理想である、との主張をしていたというのが現在の通説です。
この池上彰氏による資本論の解説が非常にオススメです。「高校生」と銘打っていますが、社会人でも読めば十分すぎるくらい資本論への理解が深まります。
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③改革開放経済と憲法改定
中国の現在の法律はこの改革開放期の延長線上にあります。
鄧小平と改革開放
1950~60年代の毛沢東による政治では、「大躍進」の失敗や文化大革命による文化・歴史の消滅を通して、中国の発展が大きく遅れる結果となりました。毛沢東の死後すぐに文化大革命は終了し、鄧小平の指導の下で、1978年から「改革開放」が始まります。
鄧小平は経済を立て直すため市場経済への移行を試み、それまでの絶対平等主義(どれだけ仕事をしても農作物の取り分は全員一緒)を脱却し、農村部における生産責任制(働いた分だけ自分の農作物の取り分が増えること)を保証しました。都市部には日本や欧米の資本を導入し、経済特区を設置しました。
現行憲法の制定
この時期には現行憲法である「82年憲法」が制定され、文革路線からの脱却を強調したものとなりました。また第二章に「公民の基本的権利および義務」を置いているのも特徴で、改革開放を反映した憲法になっているのが特徴です。
社会主義の性質を色濃く反映した憲法には、
- 人民民主主義独裁
- 社会主義国家
- 民主集中制
の三つの基本原理が前提とされていて、2018年の最新の改訂を含めて数回改正しながら現在に至っています。
今回は中国の法制度を概観する上で必要な3つの歴史的切り分け①国共内戦〜中華人民共和国の成立②成立〜毛沢東期③改革開放について簡単ではありますが解説しました。
本記事を記載するにあたって参考とした『入門 中国法』はハンディでありながら、中国における法律の全体像を抑えられ、オススメです。