現在、誰もが知るところとなった金融商品の、「仮想通貨」。特に仮想通貨を代表するビットコイン(Bitcoin)は人口に膾炙しており、テレビのCMや新聞などで日々目にするところとなっていると思います。
しかし、このビットコインが、実は「闇Web」と呼ばれるサイトで犯罪者に頻繫に決済手段として利用されていたことをご存じの方は多くないのではないかと思います。
従来の通貨とは根本的に異なる特長を持つビットコインは、一方で決済が完了したら取消せない「不可逆性」、「匿名性」、誰でも利用可能という「アクセシビリティ」という特徴から、犯罪行為の隠匿に用いられることがあるのです。今回は数記事にわけて、ビットコインのと闇Webの関係性を通し、普段光の当たらない仮想通貨のアンダーグラウンドな側面を解説したいと思います。
※過去に仮想通貨の資金洗浄に関して研究し、小論文として学会に提出した際の、当時の調査内容・小論文をほぼそのまま公開しています。
闇Web
現在インターネットの世界は誰もがアクセス可能な「サーフェスウェブ」、検索エンジンでは探し出せない「ディープウェブ」、そしてウェブブラウザではアクセスできず、専用の通信方法によらなければアクセスできない「ダークウェブ(闇 Web)」の世界に分かれています。この闇 Web には犯罪者が跋扈し、覚せい剤や大麻から偽造された身分証や紙幣、児童ポルノ、さらには殺人請負にいたるまで、あらゆる違法な商品が売買され、凶悪犯罪の温床となっています。
Torとビットコイン
Tor
このような闇 Web の利用拡大の背景には、2つの新技術がありました。それが Tor とビットコインです。
Tor は「The Onion Router」の略で、闇 Web にアクセスするための専用のソフトウェアです。当初は米国海軍によって開発されたものでしたが、2004 年以降は民間企業がプロジェクトを支援しました。
Torは通信時に、世界中の有志が運営するノードと呼ばれるコンピュータを玉ねぎの皮のように重ね、このノードを多数経由させ暗号化することで匿名性を確保するシステムです。この Tor の最大の利点として、
- 通信の暗号技術が優れていて匿名性が高いことと、
- 独立したネットワークのため外部からの圧力に強いこと
があげられます。そのため当初は迫害を受けていた政治活動家やジャーナリストが利用していたのですが、Torの高い匿名性に着目した犯罪者により、捜査機関による追跡を逃れるべく多数の違法な財やサービスが持ち込まれ、結果として闇 Web が犯罪の温床となる大きな要因となりました。
この闇Webについてはセキュリティ集団スプラウトによるこの本がおすすめです。
実際の闇Web上での事例を踏まえた上で、インターネットのプロトコルレイヤーについて詳しくない人にもわかりやすく解説されており、薄めの本なのですぐに読めると思います。
ビットコイン
そしてもう一つの新技術がビットコインです。ビットコインはその性質から主要な決済手段として用いられているのです。
従来の闇市場における主要な決済手段としては「リバティ・リザーブ(Liberty Reserve)」が用いられてきましたが、これはあまりにも犯罪者が多用したために、アメリカの捜査当局に資金洗浄の疑いでサービスを停止されてしまっていました。ほかの電子決済サービスとしてオンラインカジノ等もあったものの欠点が多く、決定的な決済手段としての地位を得るまでには至っていませんでした。しかしビットコインであれば、その匿名性や分散台帳システムに基づき誰でも利用可能なことはもちろんのこと、銀行を使った決済と異なり口座の凍結の可能性がなければブロックチェーンである以上中央政府により取引を止めることもできません。また盗難された口座やアカウントと異なりリスクなしに高い信頼性のあるアカウントを取得し取引ができ、さらに手数料も破格です(現在は高いFeeが必要ですが、当時は非常に安価でした)。
このような特徴から、ビットコインの犯罪者間での需要は急速に高まり、闇 Web における主要決済手段となっていきました。
そして特に資金洗浄や違法取引に悪用された事例の最たるものが、米国最大の闇Web「シルクロード」を巡る一連の事件シルクロード事件(Silk Road Case)です。
次回記事では、シルクロード事件のあらましから終焉までを次記事の闇Webと仮想通貨②ー「Silk Road」とFBIの捜査で詳しく見ていきたいと思います。
次記事:闇Webと仮想通貨②ー「Silk Road」とFBIの捜査
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