前回の「闇Webと仮想通貨①ーTorとBitcoin」記事にて、闇Webと仮想通貨の密接な関係について書きました。
今回は最大の闇Webであり、仮想通貨の負の側面が注目されるきっかけともなった事件「SIlk Road」について、あらましから終焉までを解説したいと思います。
Silk Roadとは何か
オンラインの闇市場
Silk Road とは、「Dread Pirate Robert(DPR)」なるハンドルネームの人物によって運営され始めたとされる、オンラインの闇市場です。数百人の麻薬販売業者やその他の不法な業者によって、違法な薬物やその他の不法な商品や人身取引等を含むサービスを 100,000人以上の購入者に販売し、数億ドルにもおよぶ巨額の取引が行われていました。
そしてその唯一の支払い方法としてビットコインが指定され、Tor ネットワークによって通常のアクセス方法ではアクセスできないよう遮断されていました。
※Torネットワークに関しては、前回の「闇Webと仮想通貨①ーTorとBitcoin」記事に詳細がありますので、まずはこちらをお読みください。
Silk Roadの摘発
このようにビットコインの匿名性と Torネットワークを利用して巨額の資金と違法取引が横行していた Silk Road でしたが、最終的には、2013 年 10 月にサイトの創設者と考えられる Ross William Ulbricht(ウィリアム・ロス・ウルブリヒト)が FBI に逮捕され、あっけなくサイトは閉鎖されます。この際、彼自身が保有していたとされる当時のレートで約 28 億円相当の 144,000BTC もFBI に回収され、事件としては一定の終わりを見ることになります。
Ulbricht 自身には 2015 年 5 月 29 日、マンハッタンの連邦地方裁判所にて、7 つの罪状による仮釈放なしの終身刑が言い渡されました。2007年以降死刑制度を廃止しているニューヨーク州では、この判決は事実上の極刑となります。
しかし、Torは本来アクセスしているユーザーを特定できないことが強みのブラウザだったはずです。加えてSilk Roadでは決済にビットコインが利用されており、「足がつく」ことはなかったはずです。いったいなぜFBIは首謀者を特定することができたのでしょうか。
FBIは匿名性をどう突破したのか
困難を極めた捜査
FBIによる捜査は困難を極めたものでした。
通常ネットプロバイダは IP アドレスから割り出されるものですが、Tor は複数のノードを重ねてその IP アドレスを隠してしまうために、FBI は発信元を特定することができなかったのです。一応FBIはSilk Roadへの潜入捜査を試みてはいたようで、捜査官の一人が Ulbricht に接近しメールをやりとりする関係には至ったものの、決定的な証拠の不足によってそれ以上の進展は見られませんでした。
さらに Silk Road のサーバは複数国に存在し、ユーザーと管理者を保護するための仕組みであるTumblerを採用していたことも、捜査の困難性に拍車をかけていたのでした。
捜査範囲の拡大
ではこれほどまでに匿名性によってすべてが秘匿された、困難な事件を、どのようにFBIは解決するに至ったのでしょうか。
実は Ulbricht の弁護人 Deralel によれば、なんとFBI の調査官は Silk Road に関してアイスランドのサーバーにまで捜査範囲を拡大していたようなのです。
これはどういうことかというと、FBIはシルクロード利用者が偶然にも誤って流出させたIPアドレスを経由してアイスランドのサーバを特定しました。そこで FBI はアイスランドと協力し、そのサーバに保管されていた半年分の取引データを発見し、DPRのIP アドレスを突き止めたのです。
逆に言えば、つまりはシルクロードを利用するユーザーのオペミスが無ければ、FBIは匿名性を突破できなかったということになります。
ウルブリヒトの詰めの甘さ
しかし本件では、この利用者の IP アドレス流出以外にも、ウルブリヒトの軽率な言動が彼自身の逮捕という結果を招いたようにも思えます。
彼はTor上のchat を暗号化せず、プレーンテキストで利用したり、またGoogle で本名を使用していたアカウントと Silk Road の運営者を意味するDPRとをリンクさせていたりといった、軽微でありながら決定的な証跡を残しており、これらのミスの集積をもって FBI は ウルブリヒトの逮捕に至ったのでした。
今回はSilk Road事件の概要に関して、解説しました。次回の「闇Webと仮想通貨③ーMt.Goxを巡る意外な議論」記事以降で、その法的な問題やSilk Roadにまつわるスキャンダルについても書いていきたいと思います。
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