【中国】Tencentが開発したブロックチェーン「TrustSQL」について、技術からビジネスまで解説する【Wechatを抱える巨大IT企業】

今日はあまり日本で知られていない、中国のコンソーシアムブロックチェーン事情について少しばかり解説しようと思います。

コンソーシアム型ブロックチェーンといえば、しばしば代表的なものとして「Hyperledger Fabric」「Corda」「R3」などが引き合いに出されます。これらはいずれも米国に拠点を置くIT企業によって立ち上げられ、その地位を築いてきました。

しかし、言語の壁に阻まれてなかなか日本には情報が流れてこないものの、中国でも国を挙げてコンソーシアム型チェーンの開発を進めています

例えば中国版Amazonとして有名なAlibabaは、Hyperledger Fabricを主導するIBMを抜き世界でもっともブロックチェーン特許を取得している企業として知られています。

関連記事:中国版Amazon「アリババ(Alibaba)」のブロックチェーンへの取り組み 

また世界のブロックチェーン特許取得状況について、詳しくはこの過去記事をご覧ください。

関連記事:ブロックチェーンを巡る中国とアメリカの特許戦争

今回はアリババに並び中国でブロックチェーンの開発を進めている、中国版LINEこと「Wechat」を運営する中国の巨大コングロマリットIT企業「Tencent(騰訊)」が開発したTrustSQLについて解説していきたいと思います。

アウトラインは以下の通りです。

  • Wechatを運営するTencent(騰訊)の会社概要
  • TrustSQLのアーキテクチャと技術要素
  • TrustSQLをとりまくエコシステムとTencentの戦略

Wechatを運営するTencent(騰訊)の会社概要

そもそもTencent(読み方:テンセント、中国語名:騰訊)とはコミュニケーションアプリWechatや世界最大のゲーム会社テンセントゲームズを子会社に持つ巨大コングロマリット持株会社です。

Tencentのメイン事業=収益の柱は大きく3つです。

  1. 微信(Wechat):SNSの枠を超え、決済・信用担保などもはや中国のインフラとして不可欠になったエポックメイキングなモバイルアプリ。MAUは9億人超え。
  2. 腾讯视频(Tencent Video):動画サイトですが、ネットフリックスやAmazon Primeに対抗しオリジナル番組も制作しています。予算をかけているので結構面白い番組が多いです。
  3. 腾讯游戏(Tencent Games):知る人ぞ知るTencentのドル箱…もとい、人民元箱2017年には任天堂やソニーを抜き世界一の時価総額・売上額を記録しました。欧米のゲーム会社を次々と買収するアクティブぶりで有名で、最近ではポケモンとのコラボゲームを開発中である旨リリースして話題になりました。

先述したECサイト「アリババ(Alibaba)」、中国最大の検索エンジン「百度(Baidu)」と並び中国版GAFAとも呼ぶべき「BAT」のポジションを占めており、ITバブルを象徴する巨大企業として知られています。

では以下簡単にTencentが開発したTrustSQLについて見ていきましょう。

公式URLはこちらです。

TrustSQLのアーキテクチャと技術要素

ホワイトペーパーから見るTrustSQLのアーキテクチャ

Tencentが公式に発表しているホワイトペーパー(中国語)によればTrustSQLを構成するのは以下の3つのサービスです。

最下層のTrust SQLでは鍵の管理などの他DBMSとしてMariaDBを利用しているため、厳密にはブロックチェーンというよりも分散型DBという方が正しいかもしれません。

関連記事:「分散型」の意味。分散型データベース(DB)とブロックチェーン、分散型台帳の違いとは?

ドキュメントから見る仕様

以下具体的にどんな機能を備えているのかドキュメント(中国語)を確認しました。コンセンサスアルゴリズムはコンソーシアム型で近頃はやりの(?)Raft-Based BFTです。

パフォーマンスとしては自称5000TPS~10000TPSとのことですが、実際に公開されているパフォーマンスも非常に高め。

独自の公開鍵基盤も持っており(「TPKI」)、鍵の管理に関してはドキュメントでかなりのページを割いてセキュアであることを強調しています。

ただ鍵を凍結することもできるようで、具体的にどんな取引をすると凍結するのか明文は無いもののややブロックチェーンの趣旨を滅却しているような気がしないでもありません。

BaaS

またPaaSの一環としてのBaaSサービスも提供しており、ボタン一つでTencent Cloudのアカウント作成、鍵の作成などを行うことができるようです。

何をBaaSに含めるかは企業によってまちまちで定義が定まってはいないものの、Tencentにとってはあくまでも独自ブロックチェーンTrustSQLおよびこれを含む包括的ソリューションをまとめてBaaSと呼んでいるようです。

Trust SQLをカスタムでフルスクラッチで実装することももちろん可能ですが、Tencent側は難易度の高さを理由にBaaSの利用を推奨しています。

腾讯区块链主要包括baas和trustsql两部分,baas主要提供商户注册、链、节点信息查询、以及一些链的操作,商户注册成功之后,通过baas可以获取到机构id、链信息等,这些信息是后续接口服务的必要信息。trustsql是腾讯区块链的底层服务,主要提供交易的插入、交易的查询等操作,用户可以直接针对这一层进行开发,但是难度也会相对增加很多。为了更好的让用户快速的接入腾讯区块链,对trustsql提供了上层接口封装,主要有两种,即数字资产服务、共享信息服务,这两种服务提供rest风格的接口,可以很方便的接入。数字资产服务、共享信息服务、以及trustsql服务都是去中心化的,以镜像的形式部署到节点上,并有操作权限的控制,用户可以根据自己的需要关闭和打开接口。 (公式ドキュメント)

AlibabaのブロックチェーンプラットフォームではHyperledgerを使用するかAlibaba Cloud Blockchain as a Serviceを利用するかは選択可能でしたが、こちらはHyperledgerを利用することはできないようですね。

各ノードのアクセス権限は自由に設定可能で、例えばリーダーとなるノードを持つ企業とそれ以外の企業が存在する場合にはそれ以外のノードの機能を制限した状態でピアとして参加させることはエンタープライズ向けであれば起こり得るでしょう。

TrustSQLに対する中国政府のとTencentの戦略

ここまでさっくり技術的なところを見てきました。

中国政府のTrustSQLに対する評価は上々のようで、昨年10月に開催したカンファレンスで政府のブロックチェーンに対する評価としては1位だったようです。また深センの税務局が発行するインボイスのブロックチェーン化に際してもブロックチェーンのプラットフォームとしてTrustSQLが選出されました。Tencentは深センを代表する企業であり、今後もますます深セン政府との密な連携は強まっていくでしょう。

TencentはAlibabaとゲーム・動画といったデジタル産業に強みを持つ企業です。またTencentは現在Wechatを活用した信用スコアリングなども研究を進め、商用化しつつありますから、TrustSQLを含むブロックチェーンをこれら既存のデジタルアセットと紐づけることで評価経済を後押ししていくものと考えられます。

 

今回は中国最大級のIT企業Tencentの概要と独自ブロックチェーンTrustSQLについて簡単に解説しました。

 

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